眼内に薬物を投与するために現在、臨床の現場では硝子体内投与が行われている。しかし、薬物は時間とともに眼内から消失していくため毎月あるいは2か月毎に薬物を繰り返し投与する必要がある。眼内で薬物を徐放できる方法を新たに開発するため、我々は脈絡膜上腔に薬物を投与する研究を行った。 脈絡膜上腔は強膜と脈絡膜の間に存在し、本来腔として存在しているわけではなく、強膜と脈絡膜は動静脈の通過により接着しているだけなので、脈絡膜から出血や滲出液が生じると脈絡膜上腔に貯留し、脈絡膜下出血や脈絡膜剥離を生じる。この脈絡膜上腔を薬物投与のルートとして活用するため、すでに臨床使用されているコラーゲンゲルを用いた。このコラーゲンゲルは冷蔵状態(4度程度)では溶液状になっており、体温(36度程度)まで上昇すると固まる性質を持っている。ウサギを用いて、このコラーゲンゲルを脈絡膜上腔に注入し、経時的に眼球を摘出し組織学的にコラーゲンゲルの影響を検討した。その結果、注入したコラーゲンゲルはHE染色により脈絡膜組織内に注入後2か月まで観察できたが、それ以降はHE染色では脈絡膜内に確認できなかった。網膜への障害の有無を検討するためアポトーシスを検出するTUNEL染色を行ったところ、TUNEL陽性細胞を認めなかった。次に、ステロイドを含有したコラーゲンゲルを眼内に投与し、ステロイドの眼内からの消失期間を検討した。対象として同量のステロイド溶液を使用した。その結果、投与翌日および30日後では両者は同等量の残存を認めたが、7日後ではコラーゲンゲル投与群でより多くのステロイドを検出した。しかし、3か月後にはステロイドは両者とも検出以下であり、コラーゲンゲルによる徐放効果を認めなかった。
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