本研究は、日本人の先天色覚異常について、色覚表現型とL/M視物質の遺伝子型との関係を明らかにするものである。本研究計画申請時にすでに400例以上解析していたが、その後現在までに53例追加解析できた。53例の内訳は次の通りである。 1型2色覚は14例(うち3色覚の遺伝子型が8例で、その4例が後続L遺伝子に-71A→Cの塩基置換を持っていた)、1型3色覚は11例(うち正常遺伝子型が2例で、片方はL遺伝子にHis300Tyrの変異を持っており、他方はL遺伝子の全領域をシーケンシングしたが変異はなかった)、2型2色覚は13例(表現型-遺伝子型不一致例はなかった)、2型3色覚は15例(うち正常遺伝子型は6例で、1例はM遺伝子にPro307Leuの変異を持ち、他の5例はM遺伝子のプロモーターに-71A→Cの塩基置換を持っていた)であった。 後続遺伝子プロモーターにおける-71A→Cの塩基置換は、上記のように表現型-遺伝子型不一致例では高頻度(53例中9例、約17%)で見つかった。同塩基置換は、日本人、中国人やタイ人では頻繁に見つかる一方、欧米人やアフリカンアメリカンでは殆ど見つからないことをすでに報告していた(Ueyamaら、PNAS(2003))。今回、南アメリカ、アフリカ、東ヨーロッパ、アラブ、インド・パキスタン、カンボジア、オセアニア、台湾原住民などに範囲を拡げて解析したところ、同塩基置換はカンボジアと台湾原住民だけに見出され、-71A→Cが日本や中国、台湾を含む東南アジアに特異な塩基置換であることが明らかになった。従って、当該塩基置換による色覚異常は東南アジアにだけ分布する可能性が示された。ミスセンス変異のうち、His300Tyrは新規な変異であり、Pro307LeuはS錐体1色覚のL/M視物質遺伝子で報告されてはいるが、先天L/M色覚異常では初めての検出である。
|