本年度は主に次の2つを行った。①日本人の先天色覚異常の新規36例におけるL/M遺伝子アレーの解析:正常遺伝子型(L-Mの遺伝子の並び)は5例であった。1型色覚(L錐体が欠損)の1例はL遺伝子にW177Xのナンセンス変異(これまで報告例はない)を持っていた。2型色覚(M錐体が欠損)の4例は全て、M遺伝子のプロモーターに-71A→Cの塩基置換を持っており、これ以外の変異はなかった。②正常遺伝子型の1型2色覚の解析:1型2色覚はこれまで129例解析し、正常遺伝子型は6例であった。2例はミスセンス変異(P231L、P187L)、2例はナンセンス変異(Y194Xと上記のW177X)で説明できたが、残る2例(A376とA642)は全く変異を持っておらず、当該L遺伝子非発現の原因が不明であった。そこで、A376のL遺伝子全体を発現ベクターにクローニングし、培養細胞にトランスフェクトしてmRNAを調べた。A376のL遺伝子からは正常よりもやや短いmRNAだけが作られていた。詳しく調べるとスプライシングにおいてエキソン3が除かれていた。このエキソンスキッピングをさらに詳しく調べたところ、エキソン3の特殊なハプロタイプによることが分かった。すなわち、コドン番号で表すと、151-153-155-171-174-178-180がG-C-G-A-T-C-G-Gのときのみ、エキソン3が完全にスキップされることが明らかになった。このハプロタイプは上記の2例(A376とA642)だけが持っており、発現が明らかな458個のL/M遺伝子では皆無であった。ハプロタイプを構成するそれぞれの多型は正常のバリエーションであるが、その組み合わせによってはスプライシングに影響する場合があることを示した。色覚異常の理解のみならず、他の遺伝性の表現型の理解に役立つ重要な視点を明らかにしたものと考えている。
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