研究概要 |
強度近視は、最近我が国で行われた大規模住民健診(多治見スタディ)において失明原因の第3位を占め(Ophthalmology, 2006)、視覚障害の重要な原因疾患である。近視は、強膜が変形することによって、眼軸長(眼球の長さ)が伸びて網膜に像が結ばれない状態である。強度の近視になると、眼軸延長に伴って網膜脈絡膜萎縮症、黄斑部脈絡膜新生血管、網膜剥離、緑内障など様々な合併症を生じ、失明に至る場合もある。眼軸が延長するメカニズムは不明であり近視の根本的な治療法がないのが現状である。多くは遺伝と環境が互いに作用しあっており、その本態はまだ十分に解明されていない。 世古は、近視化に伴う眼軸延長に成長因子やレチノイン酸が関与することをヒヨコ実験近視モデルを用いて明らかにしてきたが(Seko Y,et al. IOVS, 1995、他)、強膜が軟骨から成るヒヨコの近視モデルと強膜が線維組織から成るヒト強度近視との違いが問題になっていた。そこで、国立成育医療研究センターにおいて、子どもの眼手術検体から倫理委員会の承認を得て単離・培養された強膜細胞の遺伝子発現プロファイリングをGene Chip (Affymetrix)を用いて行った。その結果、ヒト強膜細胞が種の違いを超えて軟骨の性格を保持しており、ヒト強膜前後軸における網羅的遺伝子発現解析では、軟骨関連遺伝子、TGF-bataファミリーなどのサイトカンが前から後ろにいくに従って発現上昇していた。この傾向は異なる3眼において同じ傾向を示した。一方で、強膜の前部で後部よりも著明に高発現する遺伝子も抽出された。この遺伝子のシグナル伝達を調べた結果、眼球の形状が維持される制御機構の存在が示唆された。この成果は、現在有効な治療法がない近視に対し、新規メカニズムを介した治療法の開発につながると考えられる。
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