哺乳類網膜においてミュラー細胞の増殖および神経再生が抑制されている原因とその分子機構を明らかにするためにマウス視細胞変性モデル(Methyl-nitrosourea投与)を用いてミュラー細胞の増殖に影響を与えうる各種外因性および内因性因子の発現を解析し、以下の結果を得た。1.ミュラー細胞の増殖を活性化する要因としてFGF2、 LIF、 IGF1、 CNTFの発現増加およびその下流と考えられるErk1/2、Stat3の活性化が観察された。p38 MAPKの活性化は逆に抑制されていた。2.ミュラー細胞の増殖を抑制する要因としてTGFbeta1/2の発現増加およびpten、 Smad3の活性化が認められた。3.ミュラー細胞の増殖を抑制する因子であるp27kip1のノックアウトマウスに視細胞変性を惹起させた結果、ミュラー細胞の増殖が活性化された。以上の結果より、視細胞変性にともない分泌される種々の細胞増殖因子がErk経路、Jak-Stat経路を活性化し、ミュラー細胞の増殖を正に制御していることがわかった。ところがTGFβの分泌亢進により下流のSmad3が活性化され、またptenの発現によりPI3K/AKT経路が抑制される結果、p27等の細胞周期抑制因子の発現が維持されるためミュラー細胞のS期への進入が阻害されると考えられた。今回の結果からミュラー細胞の増殖を制御しているキー因子の候補が挙がったので、今後各因子の発現を人為的に活性化あるいは抑制することにより、それらの重要性をさらに明らかにしていく予定である。ミュラー細胞の増殖を制御する分子機構を解明することにより、その神経再生能力を活性化する手法を探索し、網膜変性の新規治療法の開発につなげたい。
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