研究課題/領域番号 |
22591968
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
藤枝 弘樹 東京女子医科大学, 医学部, 教授 (70280972)
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キーワード | ミュラー細胞 / AKT / p38 / p53 / 細胞周期 / DNA損傷 |
研究概要 |
ミュラー細胞の増殖制御因子を探索する目的で、ラット(Wistar)とマウス(C57BL/6)にmethyl nitrosoureaを投与して視細胞変性を惹起させ、ミュラー細胞の増殖および細胞内シグナリング経路の活性化を検討した。その結果、ラットではほぼすべてのミュラー細胞の細胞周期への進入(Ki67、BrdU、MCM6陽性)が見られたが、マウスでは全く見られなかった。またいずれの動物種でもErk、Stat3の活性化が見られたが、ラットでのみAKTの活性化が観察され、AKTの活性化とミュラー細胞の増殖との関連が示唆された。ところが細胞周期への進入にも関わらずミュラー細胞数の有意な増加は認められず、むしろ減少傾向があった。ミュラー細胞の細胞周期への進入と同時にDNA損傷マーカーであるリン酸化H2AXが発現し、p38およびp53の活性化も見られた。以上の結果からラット網膜のミュラー細胞は視細胞変性に伴い細胞周期に進入するが、DNA損傷を起こしてp38やp53経路が活性化され、細胞周期の停止もしくは細胞死を起こすと考えられた。 マウスではPI3K/AKT経路の抑制がミュラー細胞の増殖を抑制していると推測し、その可能性をさらに検討するためにPI3K経路の抑制因子であるPtenをミュラー細胞特異的にノックアウトしてPI3K経路を活性化するモデルを作製中である。さらにマイクロアレイを用いて視細胞変性に伴う遺伝子発現の変化をラットとマウスで網羅的に比較し、現在データの解析を行っている。 哺乳類網膜においてミュラー細胞による神経再生を困難にしている要因として、細胞周期への進入抑制だけでなく、DNA損傷による細胞周期の停止あるいは細胞死の関与が新たに示唆された。またラットとマウスを比較することで、ミュラー細胞の増殖制御に決定的な役割を果たしている因子を同定できる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定したノックアウトマウスの作製は、所属機関の変更等の事情により遅れ気味であるが、その代わりマイクロアレイによる解析等の他の実験を早め、全体の実験計画としては概ね順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
現在ミュラー細胞特異的に遺伝子発現を制御するトランスジェニックマウスを数種類作製中であり、今後これらの表現型解析をおこなっていく予定である。またマイクロアレイ解析に基づき、いくつか興味深い遺伝子が見つかっており、それらがミュラー細胞の機能制御に果たす役割について検討していきたい。
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