Methyl Nitrosourea(MNU)投与によりラット視細胞変性モデルを作製し、ミュラー細胞の細胞周期進入とその後の運命を解析した。その結果、MNU投与後2.5日にほとんどのミュラー細胞が細胞周期に進入したが、ほぼ同時にDNA損傷とp53の活性化が見られ、やや遅れてp53の下流にあるp21の発現亢進が見られた。MNU投与後4日以降にはTUNEL陽性ミュラー細胞が出現し、DNA損傷を起こしたミュラー細胞が細胞死に至る過程が観察できた。現在、組織培養したラット網膜にp53の阻害剤を投与することで、ミュラー細胞の細胞死を抑制する実験を行っている。また視細胞変性時にはミュラー細胞においてp38が活性化し、p38の阻害剤の投与によりミュラー細胞の増殖が亢進することから、p38が増殖抑制に関与していることが示唆された。 マウスのミュラー細胞はラットと異なり視細胞変性後もほとんど増殖しないが、視細胞変性後の遺伝子発現の変化をラットとマウスで網羅的に比較し、ラットのみで変化する遺伝子、マウスのみで変化する遺伝子が多数確認できた。今後これらの遺伝子の機能解析を行っていく予定である。またマウスのミュラー細胞の増殖能を活性化する目的で、Glast-CreERマウスを用いてミュラー細胞特異的にPtenをノックアウト(KO)し、またSonic Hedgehog経路の活性化を行った。しかし予想に反していずれの系でもミュラー細胞の増殖活性化は認められなかった。現在、細胞周期抑制因子であるp27とp21のダブルKOマウスを作製し、ミュラー細胞の増殖能の変化を検討している。 以上の結果より、哺乳類のミュラー細胞の神経再生が抑制されている分子機序の一部が解明され、今後網膜再生を活性化するための基盤的知識を得ることができた。
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