申請者は、国立成育医療センター眼科で、多様な眼疾患の診療活動を行い、先天白内障、緑内障、重症網膜硝子体疾患の手術に従事する機会が多いが、小児の視覚障害の半数以上を占める先天眼異常の中には治療法がなく、将来の再生医療を期待する疾患が多い。そこで申請者は、「再生医療を目指した基礎研究として、これまでマウス胚性幹(ES)細胞で行ってきた手技と知見を、小児網膜芽細胞腫の摘出眼球由来の細胞に応用し、網膜神経細胞の分化誘導法の確立を目的」に実験を行う。神経前駆細胞を含む細胞を単離後、これを増やし、従来の眼形成関連の遺伝子導入法ではなく、法的制約の少なく簡便な低分子化合物(薬剤)処理による新たな分化誘導法の確立を目指す。本研究遂行のため、平成22年度は、マウスES細胞の神経細胞分化誘導法の効率的な条件検討を行い、1)ストレス応答p38MAPキナーゼの阻害剤SB203580が、中胚葉由来の心筋細胞分化を抑制し、外胚葉由来の神経細胞分化誘導を促進すること、2)p38MAPキナーゼ/MEF2C転写因子/BMP2のシグナル伝達が関与することを見出した。p38MAPキナーゼはヒトにも保存されている必須の酵素であることから、ヒトES細胞やヒト未分化細胞にも同様な薬効を及ぼすと考えられる。患者由来の組織から単離可能な細胞に、このような低分子処理を施すことで、簡便かつ迅速に神経細胞を調製可能な方法になると期待される。上記のように、研究は順調に進展している。
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