研究概要 |
国立成育医療センター眼科では多様な眼疾患の診療活動を行い、先天白内障、緑内障、重症網膜硝子体疾患の手術に従事する機会が多いが、小児の視覚障害の半数以上を占める先天眼異常の中には治療法がなく、将来の再生医療を期待する疾患が多い。本研究では、「再生医療を目指した基礎研究として、これまでマウス胚性幹細胞で行ってきた手技と知見を、小児網膜芽細胞腫の摘出眼球由来の細胞に応用し、網膜神経細胞の分化誘導法の確立を目的」に実験を行う。神経前駆細胞を含む細胞を単離後、これを増やし、従来の眼形成関連の遺伝子導入法ではなく、法的制約の少なく簡便な低分子化合物(薬剤)処理による新たな分化誘導法の確立を目指す。 本研究遂行のため、平成22と23年度に、マウス眼球由来の細胞を用いたneurosphere法で神経前駆細胞を含む細胞集団を増殖させる実験系が確立した。また、低分子化合物SB203580用いた神経細胞分化誘導法も稼働させ、1)ストレス応答p38MAPキナーゼの阻害剤SB203580が、中胚葉由来の心筋細胞分化を抑制し、外胚葉由来の神経細胞分化誘導を促進すること、2)p38MAPキナーゼ/MEF2C転写因子/BMP2のシグナル伝達が関与すること、さらに3)MKK7が神経伸長に必須の役割を果たすことを見出した。p38MAPキナーゼもMKK7もヒトにも保存されている必須の酵素であることから、ヒトES細胞やヒト未分化細胞にも同様な薬効を及ぼすと考えられる。患者由来の組織から単離可能な細胞に、このような低分子処理を施すことで、簡便かつ迅速に神経細胞を調製可能な方法になると期待される。最終年度の平成24年度は、約1,600種類の低分子化合物をスクリーニングし、神経細胞分化を促進する低分子化合物を同定し、最終年度の総括を行った。
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