椎弓の欠損を主徴とする非致死性脊髄奇形である二分脊椎症は、主に椎弓欠損のみの潜在性型と椎弓欠損に髄膜あるいは脊髄と髄膜の両方が巻き込まれる嚢胞性型とに大別される。一般に潜在性型は無症状であるが、嚢抱性型は種々の程度の神経障害を示す。これまでの二分脊椎症に関連する研究では、この神経障害の病態は臨床知見に基づいたものがほとんどであり、実験に基づく知見は臨床知見に比べて少ない。ゆえに、その詳細な病態については不明な点が未だ多く残されている。我々はこれまでに二分脊椎症で見られる神経障害の病態を詳細に解析することを目的として、ヒト二分脊椎症患者に似た後肢運動障害を示す二分脊椎モデル動物を開発した。 平成24年度では、奇形脊髄領域における運動神経細胞の機能維持の有無という点に着目した。すなわち、モデル動物における歩行障害の直接の原因と考えられる運動神経細胞の機能について、これまでの形態学的手法に加え、電気生理学的手法を用いての実験に取り組んだ。形態学的及び生化学的手法では、これまでの知見と一致するように二分脊椎モデル動物においても奇形脊髄領域の運動神経細胞自体の機能が保存されていること及び奇形領域にある運動神経細胞と支配骨格筋の間に神経伝導路(運動神経線維)が存在していることを再確認した。電気生理学的手法でもこれが再確認され、奇形領域に残っている運動神経機能はその機能を維持している可能性が高いことが判った。しかし、モデル動物の小脳及び上位脊髄の電気刺激では、運動機能の発現が確認できないことから一見、正常構造をもつ脊髄内を走行する運動を司る下行路に障害が発生していることが示唆された。この考えは、前年度に発表した知覚伝導路異常に関しての知見と一致する。これらの知見に関しては追加の実験を行った上で論文として発表する予定である。
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