我々は直腸肛門奇形の発生メカニズムを解明するため、従来から催奇形物質としてレチノイン酸(RA)を用いて95%以上の高率で直腸肛門奇形モデルを作成し、形態形成の要因となる細胞の局所的増殖及び細胞死について検討を行ってきたが、今後特に直腸肛門領域の発生過程における詳細を新たな発生生物学的な手法を用いて明らかにする必要性があると考えるに至った。すなわち、正常マウスの消化管パターン形成や、RA投与で作成した直腸肛門奇形マウスの後腸分化のうえで重要な転写因子発現の誘導を阻害する過程に対し、転写制御の分子機構からみた直腸肛門奇形のrescue programを確立し、そのメカニズムについて分子レベルの面から解明することを目的とした。 (1) Retinoi cacid単独投与マウスコロニーの確立 従来から行ってきた方法で直腸肛門奇形マウスを作成した。生後6週目のICRマウスの雌雄を2時間交配させ、vaginal plugが確認できたマウスはmatingしたと判断し、この時間を妊娠0日と定めた。直腸肛門奇形を誘導するため、100mg/kgのall-trans retinoic acid (RA)をsesame oilを溶媒として妊娠9日目のマウスに腹腔内投与した。妊娠14日目から16日目に妊娠マウスを犠牲死させ、実体顕微鏡下にそれぞれの子宮より胎仔を摘出し直腸肛門奇形の有無を確認した。全例において、無尾ならびに直腸肛門奇形を認めた。 (2) LE135及びRetinoic acid投与マウス胎仔における消化管奇形発生の有無についての検討 妊娠8日目にLE135200mg/kgを投与し、妊娠9日目にRA100mg/kgを投与した群(Group B)では、直腸肛門奇形(ARM)の発生率は64%に減少した。また、LE135並びにRAを妊娠9日目に投与した群(Group C)では、ARMの発生率は55%まで減少した。RA受容体のantagonistがRA核内受容体でのヘテロダイマー形成を阻害しRAの作用が抑制されARMを伴わないマウスが作成された。
|