癌の転移・再発・治療抵抗性に大きく関与すると注目されているのが「癌幹細胞」である。癌を根治するためには癌幹細胞の性状を明らかにし、これに対する根絶治療法の開発をすすめなければならない。本研究では小児肝臓の悪性腫瘍である「肝芽腫」の新たな治療法開発を目指し、培養実験モデルを用いた肝芽腫幹細胞の分離と同定、肝芽腫幹細胞の特異的活性化因子の検出、癌幹細胞が関与する腫瘍血管新生因子の解明および腫瘍血管構築の形態学的解析を目的として研究をすすめてきた。 平成24年度は研究実施計画に基づき肝芽腫細胞培養実験モデルを作成し、この培養系を用いてフローサイトメトリー解析を実施し、SP分画細胞をソーティングした。NOD-SCIDマウスをレシピエントとしてSP細胞の皮下移植を行い、形成された腫瘍組織を用いてスフェロイド培養を行うと、無血清浮遊培養条件下でスフェアが形成された。スフェアにはCD133陽性細胞が認められた。腫瘍中のCD133陽性細胞はスフェアを形成する未分化の細胞群であり、これらの細胞が接着するとCD133陰性の分化型細胞に変化するとされることから、形成された浮遊スフェアを3次元コラーゲンゲル内で再培養すると、スフェアから伸長した毛細血管様の構造が確認された。スフェアに血管新生因子 Tie-2陽性の細胞が認められたことから、腫瘍血管を構築する何らかの要因が存在することが示唆された。 また、肝芽腫細胞におけるCD133の発現局在を電顕観察し、CD133の機能的意義について考察した。肝芽腫細胞ではCD133陽性部位は細胞膜にみられる糸状仮足および葉状仮足を含む複雑な構造を呈する部位に集中していることが明らかとなった。CD133陽性部位の局在性はCD133が肝芽腫細胞の接着・遊走に関与することを示している。
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