血管腫、母斑、刺青等に効果的なレーザー治療の適用範囲を,皮膚深層にまで広げるためには,既存技術の延長だけでは限界がある.新開発のレーザー走査技術「シュリンクフィッタ」を用いることで,極限まで絞り込んだレーザービームを広い患部にわたり走査することが可能となり、かつ、副作用の軽減を図れる可能性がある.本研究では,新技術を用いた高機能・低侵襲レーザー治療器の開発とその効果確認、作用機序を研究目的とした。波長1064nmでQ-switch付レーザー発信機とガルバノミラーによりfθレンズ(シュリンクフィッタ技術による)を通して,微細に集光されたレーザー光が広い患部の任意の位置に照射できる新しいレーザー治療装置を用いて実験を行った。刺青を念頭におき、黒の墨汁を用い、ラットの背部に皮膚全層にわたる刺青を作成し、微細に集光したレーザー照射の条件を変えつつ照射した。照射後の肉眼所見を2週間毎日観察記録、その後は1週毎観察記録した。組織採取を照射直後、1週、2週、4週、8週に行い、組織学的に効果判定、副作用判定を行いつつ、至適レーザーパワー、至適照射方法の検討を行った。サーモグラフィーを用いた実験も行った。これらの検討により、この装置を用いた場合、皮膚表面の温度を理論値で100℃以上上昇させる熱量をQスイッチレーザーで加えることで墨の除去が可能であることが分かり、有効な治療効果のある照射条件では、組織断面に墨の残留は認められず、皮膚深部の墨も除去することができた。しかも、レーザー照射直後の皮膚表面では熱傷等の副作用は認められなかった。皮膚の内部では0.5mmの深さまで組織変性が起こっていることを組織学的に確認したものの、従来の機器より深部への効果を認め、かつ、副作用が少ない可能性は示唆された。
|