研究概要 |
動脈硬化症の末梢病変に対して、従来の治療法が奏功しない重症患者が下肢切断を余儀なくされている。下肢切断回避法として骨髄細胞を用いた血管再生療法が本邦で2000年より開始され、有効性・安全性が報告されているが、採取の際の侵襲や回数の限界、症例の限定など、多くの問題が残されている。従来の骨髄細胞に比し、皮下脂肪細胞は容易に安全に採取でき、繰り返し採取可能なことから次世代の再生医療の有力な細胞供給源として期待される。この3年間の期間において、我々は皮下脂肪由来再生細胞(ADRC)の血管再生の有効性をマウス下肢虚血モデルにおいて証明した。体性幹細胞の性質についての詳細な評価やメカニズムの解析が今年度の検討課題である。特に骨髄細胞ではリスクファクター存在下で血管新生の効果が減弱することが知られているが、臨床応用上重要な事項でありADRCにおいても検討した。ラットにおいて、高血圧・肥満・老化・糖尿病(耐糖能障害)モデルを作成した。高血圧モデルラットでは、12週間の観察期間ではその影響はなかった。糖尿病モデル(ストレプトゾトシン投与ラット)では、ごく軽度のVEGFの発現に差があったが有意差は認めなかった。肥満モデルは高脂肪食負荷にて肥満を誘導した。このモデルにおいてはインスリン抵抗性を獲得しており、脂肪の炎症も認められ、フローサイトメーターにおいてCD68,45が増加し、CD34は低下していたが、血管新生能には影響がなかった。老化モデルは通常飼育にて、12~18ヶ月齢まで加齢させたが、老化個体からのADRCの採取率が極めて悪く今後の研究の課題とした。今後のADRCの血管再生治療応用に関しては、新鮮単離ADRCと培養ADRCと比較したが、新鮮単離ADRCのほうが有用であることが示され、CPCなどを必要としないシステムのほうが有用であるため、臨床応用に近いデータを得られた。
|