1.リンパ管走行の描出 20週齢のウイスター・ラット10個体を用い、過酸化水素法によりラット下肢のリンパ管の詳細な走行を確認し、記録を行った。ラットの下肢の趾尖に色素を混ぜた6%過酸化水素水を注入する。注入された過酸化水素水は組織中の酵素と反応し、酸素の気泡を発生させる。足背から中枢に向かって注意深く皮膚を切開し、皮下組織の剥離を行うと、酸素気泡により膨らんだリンパ管構造が見出される。リンパ管を同定後、プラーで引き伸ばしたガラス(先端径0.1mm程度)を用いて色素を徒手的に注入する。リンパ管に注入された染色液は容易に中枢へ移行し、鼡径部や腹腔内リンパ節まで染色される。顕微鏡に接続されたカメラによりラット10個体20側における下肢のリンパ集合管の走行を観察し、走行分布の記録を行った。 趾尖皮下のリンパ管は足背に集まり、外側伏在静脈、坐骨静脈に沿って上行し、膝窩リンパ節を経て腹側へ向かい、大腿動静脈に沿って上行することが判明した。足内側からのリンパ管は内側の伏在静脈、大腿動静脈に沿って上行し、両者は合流し、主に鼡径靭帯をくぐり、腹腔内のリンパ節へ流入していた。また、大腿動静脈に沿って上行した後に浅下腹壁動静脈と並走し、腹壁皮下へ向かい、鼡径リンパ節に流入する経路があることも明らかになった。 2.ラットのリンパ管組織の観察 抗LYVE-1抗体によりリンパ集合体の免疫組織化学染色を行い、ラット下肢組織の組織的観察を行った。抗LYVE-1抗体はリンパ管内皮細胞を染色するとされる。私達の研究でも、抗LYVE-1抗体よって染色された細胞は、管状構造を作る扁平な細胞であり、上述のリンパ管描出法と2重染色された。従って、抗LYVE-1抗体によるリンパ集合体の免疫組織化学染色法でも、ラットのリンパ管が同定できることが明らかになった。現在、さらに抗podoplanin抗体を用いた染色も試みている。これらの成果を踏まえて、次年次以降のリンパ管の変性、再生の観察に備える。
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