臨床の場において知覚障害部位の創傷はしばしば難治性であり治療に難渋する。近年糖尿病性足病変などは増加傾向にあり、切断に至る予後不良例も存在する。血管の閉塞性病変が主たる要因であるが、その他の重要な原因の一つに神経障害がある。皮膚の創傷治癒遷延についての神経因子の動態を解析し,脱神経部位の創に対する神経因子の局所投与が与える影響について検討した。全行程について北里大学動物実験指針に基づいて実験を行った。慢性疼痛モデルの作成を試みたがこれまでの報告モデルの再現性は安定しなかった。脱神経知覚障害モデルの作成は従来法で行った。Sprague-Dawley ratのTh8からTh13までの肋間神経を切離することで背部に知覚脱失の範囲を作成した。健常部と知覚異常部位に皮膚全層欠損を作成しそれぞれの部位での創傷治癒を比較した。免疫染色で健常皮膚では真皮内および皮下の神経線維内のサブスタンスP(SP)が同定された。しかし脱神経後7日目以降,SP陽性神経線維は認められなかった。知覚障害のある創では他に比べ創の収縮率が低い結果となり創傷治癒は遅延した。さらに知覚障害のある創傷でSPを補充した場合では治癒の促進効果が得られたが、健常部の皮膚欠損に対してSPの投与は効果がなかった。皮膚の創傷治癒では神経因子の関与により治癒経過が変化する。適切な時期に既知の神経因子の創傷への補充療法なども臨床的効果が期待されると考察した。
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