過大侵襲時には様々な栄養代謝に関係する因子の欠乏が生じてくる。心臓手術は過大侵襲の一つである。また亜鉛は免疫調節に関係する重要な微量元素である。この微量元素の変化について心臓手術、集中治療室での変化について検討した結果、心臓手術により亜鉛濃度の低下が生じる。また集中治療室入室患者の約70%は低亜鉛濃度を呈し、適切な一日必要量とされる亜鉛の補充にもかかわらず、2週間後も低亜鉛濃度を呈する患者は60%であった。またラットを用いた動物実験では単に滴切な亜鉛濃度の補充のみでは体内亜鉛濃度を保つことは難しく、同一カロリー投与でもタンパク質投与量を強化した栄養剤の投与が最も効果的に体内亜鉛濃度を保つことが可能であった。また亜鉛濃度の低下を抑えるために侵襲前に亜鉛投与を行うことが、その後の免疫能を保つことに有効であることが確認できている。このため従来手術前は絶飲食時間がとられていた。しかし術前2時間前までの飲水は麻酔導入に伴う誤嚥性肺炎の発生には無関係であるという報告、ガイドラインが多くの国では示されている。そこで術前2時間までに亜鉛が含有されている炭水化物飲料水の補水を行うと従来の絶飲食時間に比較して有効に術前の亜鉛濃度を高く保つことが可能であった。これらの事実は重症患者での亜鉛補充の重要性、侵襲期でのタンパク質強化栄養剤の重要性、手術前での亜鉛含有炭水化物補水の重要性を示し、今後の重症患者での新たな栄養療法の可能性を示すものである。
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