[目的・方法]一酸化炭素(CO)中毒早期における大脳白質障害を低侵襲的かつ客観的に評価し、「急性型」「遷延型」「間歇型」CO中毒各病型の大脳白質障害の程度や進行の差異を明らかにし、「間歇型」中毒の早期発症予測を実現することを目的とした。間歇型や遷延型症例に出現する精神神経症状は、COによる大脳白質神経線維の脱髄性変化が原因であることから、我々は、CO中毒29症例に対して、中毒亜急性期における脳脊髄液中myelin basic protein (IMBP)の測定とともに、高磁場MRIを用いた拡散テンソル画像(DTI)によるfractional anisotropy (FA)値を測定して、病状の変化と比較し検討した。さらに付随研究として、magnetic spectroscopy (MRS)による大脳白質内代謝産物の変化を測定して、FAと同様に症状の変化と比較した。 [結果]慢性期に神経症状を呈する「遷延型」と「間歇型」中毒型症例では、亜急性期MBPは高度に上昇しており、CO中毒による慢性期神経障害は大脳白質神経線維の脱髄が原因であることを再確認した。DTIによるFA値は、MBPと負の相関を示したことから、FA値がCO中毒後大脳白質における脱髄性変化の程度を鋭敏に表していることが示唆された。また、FA値の設定閾値によって「間歇型」症例における遅発性神経障害を亜急性において発症予測できる可能性が示唆された。同様に、MRSによる代謝産物の変化が大脳白質の脱髄性変化に伴う炎症反応を反映し、「間歇型」症例の遅発性神経障害を亜急性において発症予測できることが判った。 [意義・重要性]「間歇型」症例の遅発性神経障害の発症を予測することは困難であった。最近になって脳脊髄液中MBP濃度が発症予測因子となる可能性が示されて来ているが、脳脊髄液採取は高侵襲であることから、それに代わる低侵襲な検査法が望まれていた。本研究によって、DTIやMRSがCO中毒による大脳白質障害を鋭敏に把握し、「間歇型」の遅発性神経障害の発生を事前に予測することが示唆された意義は大きい。
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