近年、セメント質の形成・再生においてヘルトビッヒ上皮鞘とマラッセの上皮遺残が重要な役割を果たすことが徐々に明らかにされつつある。しかし、以下に記す3つの事項については諸説あり、いまだ不明確である。1.ヘルトビッヒ上皮鞘の断裂機構に対する歯小嚢細胞の関与について、2.上皮鞘断裂後の上皮細胞について、3.マラッセの上皮遺残の細胞活性の変化について。 平成22年度は上記1の解明を重点に研究を行った。 ヘルトビッヒ上皮鞘の断裂は上皮細胞同士の接着蛋白、とくにデスモゾーム関連蛋白(デスモプラキン、デスモグレイン等)が特定酵素により分解されることで起こるのではないかと想定し実験を行った。生後3週齢ラットの歯根未完成の上顎第一臼歯のパラフィン切片を作製し抗デスモプラキン抗体と抗デスモグレイン抗体で免疫染色した。両蛋白とも未断裂のヘルトビッヒ上皮鞘に反応が認められたが、断裂にともない反応は弱くなる傾向がみられた。デスモゾームが壊れることにより上皮鞘が断裂してゆくことが示唆された。ついでデスモゾーム蛋白およびE-カドヘリンをそれぞれ分解するといわれるカテプシンDおよびADAM10を特定酵素として選び両抗体による免疫染色を行った。両酵素とも上皮鞘よりも歯小嚢に強い反応が認められた。 以上の観察結果から、ヘルトビッヒ上皮鞘は発生に伴い自壊してゆくというよりも歯小嚢細胞がなんらかの機序により酵素を上皮鞘細胞間に送り込み、それにより接着装置が破壊されて上皮鞘断裂が起こることが示唆された。
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