研究概要 |
口腔癌において、タバコとアルコールが重要なリスクファクターであるが、近年はヒトパピローマウイルスも発癌の原因の一つであるといわれている。一方、口腔領域における細胞診の普及率はまだまだ低いが、擦過細胞診による口腔癌検診も日本各地で行われはじめている。これまで我々が、子宮頸部病変の解析をもとに口腔病変におけるヒトパピローマウイルス感染を同定する方法を検討した結果から、少なからずヒトパピローマウイルスが口腔癌の発生に関与する可能性が考えられた。本研究では細胞診にもそれを応用し、細胞診断およびヒトパピローマウイルス検出システムを構築することを目的とし、具体的には、口腔白板症と扁平上皮癌症例からえられた検体を用いて細胞診の診断基準を確立し、また、同時にヒトパピローマウイルス遺伝子の解析を行い発癌との関連について調べた。 今年度までに、研究分担者が所属する診療科から、扁平上皮癌あるいは前癌病変が疑われる症例の細胞診の依頼は約100件であった。ブラシを用いた擦過材料からパパニコロウ染色標本を作製し細胞診断を行った結果、陽性例はすべて扁平上皮癌であり、陰性例はすべて良性病変であった。また、そのうち50例について、ブラシに付着した残りの検体からDNAを抽出し、コンセンサスプライマーを用いたPCR法とHPV typing法によりヒトパピローマウイルスの検出を行った。HPVについては、コンセンサスプライマーを用いたPCR法でもHPV typing法においても陽性症例はなかった。 また、細胞二重免疫染色の有用性を確認するために、免疫染色可能な細胞診標本があり組織診断が確定している32症例についてp53,p16二重染色を行った。p53陽性例はすべて扁平上皮癌で、扁平上皮癌以外の症例はすべて陰性であったが、検出感度は30%と低かった。p16に関しては感度・特異度ともに有用な結果は得られなかった。
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