前年度の成果として、ラットの脛骨神経を切断して後肢足部からの侵害情報伝達を総腓骨神経と伏在神経によるものに制限すると、①切断2週間後に切断側の後肢足部への侵害性熱刺激によって脊髄後角内の2次ニューロンにc-Fosタンパクの過剰誘発が起こること、および②総腓骨神経の通過部位である腓骨頭付近の皮下にアデノシンA1受容体のアゴニストであるchlorocyclic pentyladenosine (CCPA)を投与することによってc-Fosの過剰応答が抑制されることを明らかにした。平成24年度には、年度計画に従ってこの研究にデータを追加すること以外に、同実験系で後肢足部への刺激によって誘発される痛覚関連行動の分析を行った。von Frey hairを用いた機械的刺激に対する逃避行動の誘発閾値は脛骨神経切断により上昇したが、切断2週間後には切断前の値を下回るまでに低下した。また侵害性の輻射熱刺激に対する逃避行動の潜時も同様に一過性の延長と、2週間後の短縮がみられた。このモデルに対してc-Fosの誘発実験と同様の方法でCCPAを投与したところ、機械的刺激に対する反応にはなんら影響がみられなかったが、侵害性熱刺激に対する逃避行動の潜時は切断2週間後にCCPA投与側に反対側と比較して有意の短縮が認められた。 以上の結果を総合すると、①脛骨神経切断後のc-Fosの過剰応答が神経障害性疼痛を反映するものであること、および②同神経切断後の熱刺激に対する痛覚過敏が末梢神経系のアデノシンA1受容体の活性化によって抑制されることが示唆される。
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