顎顔面領域の慢性疼痛を訴える患者の診察にあたって、疼痛の感受部位と疼痛の発生源とが異なる状態に出くわすことは少なくない。このような異所性疼痛の状態は歯科医が的確な鑑別診断を行おうとする際の大きな障壁となりうる。 最近の研究では、中枢神経において神経膠細胞である星状膠細胞と小膠細胞が神経因性疼痛に関与していると報告されている。研究代表者は、咬筋炎症時に三叉神経脊髄路核の神経膠細胞が活性化し、活性化した星状膠細胞から分泌されるIL-1betaが慢性疼痛に深く関与していることを示した。しかし、末梢神経の刺激が星状膠細胞に伝達されるメカニズムについては解明されていない。 隣り合う上皮細胞をつなぎ分子を通過させる細胞間結合としてgap junction (GP)がある。神経膠細胞間でGPを形成していることが知られており、神経膠細胞がGPを介して活性化される可能性がある。 本実験では、三叉神経傷害後の顎顔面領域における異所性疼痛について、炎症性サイトカインとギャップ結合に注目してその発生メカニズムを明らかにする。さらに核酸分子を用いた治療薬についても検討する。本研究はギャップ結合と炎症性サイトカインに注目した新たな鎮痛療法を模索するものである。また、siRNAをラットに用いたinvivoの実験系はほとんど報告されていない。慢性疼痛により世界で1500万人以上の多くの患者が苦しみ、その一部は歯科治療を困難にしている。異所性疼痛における痛覚信号の修飾機構の解明は疼痛除去と管理に科学的根拠を与える意味で重要と考えられ、波及効果は極めて大きいと考えられる。
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