研究概要 |
Streptococcus anginosusは口腔常在菌の一菌種で病原性は低いと考えられているが,近年,口腔癌をはじめ種々の消化器癌との関連が示唆されている.しかし,現在,本菌の生物発癌に関わる病原因子の解析はほとんどなされていない.そこで本研究では,S. angiosusの感染初期に重要な役割を演じると考えられる病原因子の一つ,宿主細胞への付着因子を同定し,細菌の病原性発現機序の一端を解明するとともに,本付着因子の口腔癌予防ワクチンとしての可能性を検討する.本年度は,S. angiosusの株化上皮細胞への付着性状を検討し,付着に関わる細菌側の因子を同定することを目的として検討を行った.その結果,1. S. angiosusは上皮細胞株であるGE1細胞およびHEp-2細胞に対して有意の付着能を示した.また,菌体と上皮細胞の付着実験系にフィプロネチンを添加すると同菌の上皮付着がさらに誘導された.さらに,S. angiosus刺激は上皮細胞にTGFbおよびフィプロネクチンの発現を上昇させることが明らかとなった.2. S. angiosus NCTC 10713株のゲノムDNAからジーンウォーキングにより,上皮細胞付着に関わるフィプロネクチン結合タンパク質遺伝子fbp62を同定した.本遺伝子は1650塩基対からなり,本遺伝子産物Fbp62は549アミノ酸からなる分子量62,000,pIは8.1と推定された.本フィプロネクチン結合タンパク質は他のレンサ球菌で報告されているフィプロネクチン結合タンパク質との相同性がアミノ酸レベルで72-82%と高かった. これらの成績から,S. angiosusのFbp62は上皮細胞へのフィプロネチンを介した付着機序に関与し,S. angiosus感染において重要な病原因子として機能していることが強く示唆された.
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