研究概要 |
S.mutans 109c株を野生株とし(WT)、WTおよびそのlgt遺伝子欠損株(△lgt)を用いて、齲蝕原性(バイオフィルム形成能、酸産生能、耐酸性能)を調べた。バイオフィルム形成能は、固層表面付着能、菌体外多糖合成能、グルカン依存性凝集能、抗菌物質産生能を調べることで評価した。ガラス管壁への付着能を調べた結果、WTと△lgtで有意な差は認められなかった。ショ糖からの菌体外多糖(グルカン、フルクタン)合成能に関して、ポリアクリルアミドゲルを用いてゲル内多糖検出を試みたが、有意差は認められなかった。グルカン依存性凝集をストレス環境下(加熱、アルコールなど)で検討した結果、WTおよび△lgtで有意差は認められなかった。他の口腔内細菌(S.gordonii, S. sanguinis, S. mitis, Actinomyces israelii)に対する抗菌物質産生の影響を調べたが、やはり両菌株の間に差は認められなかった。以上のことから、S.mutansの細胞表層リポ蛋白質の、バイオフィルム形成能における重要性は見出されなかった。次に、S.mutansの酸産生能を評価するために、各種糖類(オリゴ糖、麦芽糖、ショ糖)の利用について、細菌の発育速度を指標に検討を行った。ショ糖、グルコースを炭素源として培地に添加した場合では、WTおよび△lgtで有意差は認められなかったのに対し、オリゴ糖(メリビオースなど)、麦芽糖を用いた培地では、WTの発育速度は△lgtのそれよりも速いことが示された。しかし、細菌増殖後の最終pHを調べたところ、両菌株間で有意差は認められなかった。一般的に、S.mutansにおける重要な糖取り込み機構はPTS系であることが報告されているが、本研究結果は、S.mutansはそれ以外にも第2の糖類取込み機構が存在し、それにLgtの支配下にある細菌リポ蛋白質が重要な役割を果たしている可能性を示唆している。しかし、最終pHの結果からは酸の産生量には直接影響を及ぼしている可能性は低いと考えられそうである。
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