研究概要 |
細菌の細胞表層には、細胞膜と結合した形でリポタンパク質が存在し、生理的に、あるいは病原因子として重要な機能を果たすことが示唆されている。このリポタンパク質の細胞膜局在性を制御しているのがLgt酵素であり、成熟に関わっているのがLspA酵素である。本研究では、齲蝕原性細菌であるStreptococcus mutansを研究対象とし、この菌が持つ齲蝕病原性とリポタンパク質の関係を明らかにし、上述のLgt酵素、LspA酵素が新規標的分子となりうるかの検討を行った。現在、S. mutansのゲノムデータベース解析の結果から、約30種類のリポタンパク質の存在が示唆されているが、実際に機能解析がなされているのはMsmE,MalE,RnsBの3種類のみでいまだほとんどのタンパク質が機能未知の状態である。我々が着目したのは、Lgt酵素およびLspA酵素が一度に全てのリポタンパク質の制御を行う点である。すなわち、LgtあるいはLspA酵素の機能不全が約30種類存在する全てのリポタンパク質の機能を喪失させることから、S. mutansのLgtあるいはLspAの欠損株を用いて機能解析(齲蝕病原性に関わる)を野生株との比較により検討することで、それら病原性に関わるリポタンパク質の存在が推定できることにある。その後、各リポタンパク質の欠損株を作製、それらを用いて同様に機能解析を行うことで関連リポタンパク質を特定する。以上の手法を用いてS. mtuansの病原性解析を行った結果、今回、耐酸性への関与が想定されるリポタンパク質OpcC、ならびに先天免疫系における食作用回避への貢献が予想されるリポタンパク質PpiAの存在が浮かび上がった。現在、これらリポタンパク質がどのような機構によりこれら病原性に寄与するのか、遺伝子レベル・タンパク質レベルでの機能解析に取り組んでおり、さらに、リポタンパク質制御酵素とこれらリポタンパク質の関係解明に全力で取り組んでいるところである。
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