唾液腺腫瘍は組織型が多彩である。中でも同一腫瘍内に良性撞瘍と悪性腫瘍を認める多形腺腫由来癌や異型性を伴う多形腺腫に注目し、良性腫瘍部や悪性腫瘍部、さらに異型性の見られる部位と正常部でのタンパク質の発現の違いを検討した。研究試料として、2004年-2009年の6年間に本大学病院病理診断科に提出された唾液腺組織検体(生検および手術材料)のうち、多形腺腫と診断された77症例と、その中で多形腺腫由来癌として診断された11例を用いた。さらに多形腺腫と診断した77症例を、もう一度H・E染色で検討し、77症例中の悪性像の有無や細胞異型性の有無を確認した。多形腺腫と診断された症例でも、一部に異型細胞を伴うatypical pleomorphic adenomaの症例を認めた。今回は多形腺腫と異型細胞の見られる異型多形腺腫の症例を用いて筋上皮細胞の指標であるp63、細胞増殖能の指標であるp53、リン酸化p53やMIB-1、DNA損傷の指標となるMDM2、Chkl、Chk2、リン酸化Chkl、リン酸化Chk2の抗体を用いて、免疫染色を行った。多形腺腫ではp53の発現は弱いが、核が腫大した異型性のみられる部位では発現が強く見られた。Chklは異型の乏しい腺管形成部位に発現が認められ、異型細胞では発現が認められなかった。Chk2は軽度の異型を伴う細胞に発現を認めた。リン酸化p53(Ser15とSer20)やリン酸化Chk2の発現はごくわずかであったが、リン酸化MDM2の発現は著明にみられた。Ki-67は良性腫瘍での陽性率は1%以下であったが、核に異型を認める部位では約20%の陽性率を示した。正常組織部位と異型細胞のみられる部位、さらに癌細胞での種々のDNA損傷に関与するタンパク質発現の差異をさらに検討する必要があると考えた。
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