唾液腺腫瘍は組織型が多彩である。その中でも多形腺腫由来癌は同一腫瘍内に良性腫瘍と悪性腫瘍を認め、一部移行的な部分が混在することや、良性の多形腺腫でも細胞異型を認めることがある。そこで研究対象として多形腺腫由来癌や異型性を伴う多形腺腫を用い、良性腫瘍部や悪性腫瘍部、移行部で発現しているタンパク質発現の変化を確認し、細胞が良性から悪性に移行するメカニズムの解析を目的とした。 多形腺腫由来癌の癌成分は、大部分が腺管形成や充実性増殖、一部では孤立性に浸潤する上皮成分で、核腫大やクロマチン増加、多形成、核小体が目立つなどの多彩な像を呈していた。二層性を示す腺管部分でも、内腔側の上皮に異型性を認める部分があり、p63は外側の筋上皮細胞に陽性を示し、内側の異型を示す細胞ではEMA陽性、p53陽性、p21陽性が認められた。充実性に増殖する腫瘍細胞の大部分はEMA陽性で、ごく一部にp63陽性がみられた。多形腺腫の硝子変性内に紡錘形の腫瘍様細胞がみられ、一部の細胞にp63陽性を示していた。二層性を示す腺管部分の内腔側の細胞に異型を示し、p53陽性率も高く、充実性に増殖する腫瘍細胞にはEMAやp63の両者の発現を認め、比率としてはEMA発現の方が優位であった。 Skp2は、p27などの細胞周期ブレーキを分解することによりG0期から細胞周期への再進入を促し、細胞増殖を開始させることから、異型細胞にSkp2の増殖が認められるかどうかの確認を行ったところ、癌細胞や異型細胞に陽性を示し、正常細胞ではごく一部に陽性を示した。多形腺腫由来癌の経過は長く、多くの症例では多形腺腫が存在した後、急速に増大する傾向がある。筋上皮細胞と基底細胞の形態的連続性が示唆されているが、今回の結果から筋上皮細胞と導管上皮細胞の両者が形質転換し、癌化する可能性が示唆された。
|