研究概要 |
〔行動学・電気生理学・薬理学的検討〕慢性歯髄炎による顔面皮膚の痛覚過敏に関与する延髄侵害受容性ニューロンの応答性変化に対するアストログリアの関与について,片側の下顎第一大臼歯の咬合面を歯科用ドリルにて切削し露髄させた慢性歯髄炎モデルラットを用いて検討した。行動解析の結果,オトガイ皮膚の機械刺激に対する逃避閾値は,歯髄開放後3日目より有意に低下した。つぎに,三叉神経脊髄路核尾側亜核(Vc)より記録した侵害受容ニューロンの基礎的な活動へ,アストログリアのグルタミン合成酵素(GS)の抑制剤であるmethionine sulfbximine(MSO)の脳脊髄液への添加が及ぼす効果を電気生理学的に解析した。その結果,この侵害受容ニューロンの機械刺激誘発反応は増加しており,この増加をMSO処置は抑制した。 以上のことから,慢性歯髄炎モデル動物における機械刺激に対する閾値の低下は,アストログリアによるVcニューロンの感作により引き起こされている可能性が示唆された。 〔神経化学的検討〕GABA合成阻害薬のallylglycine(AG)の側坐核への灌流投与が惹起した同部位のドパミン(DA)遊離に対するGABA受容体サブタイプの関与について,無麻酔非拘束ラットを用いin vivo脳微小透析法により検討した。その結果,AGの側坐核への灌流投与は,同部位のDA遊離を用量依存的に約200%まで増加させた。このAGの効果はGABA_A受容体系薬物(muscimol,bicuculline)の影響を受けなかったが,GABA_B受容体作動薬(baclofen)により抑制された。このbaclofenの抑制効果は,GABA_B受容体拮抗薬(saclofen)の併用によって消失した。 以上の結果から,AGの局所灌流投与が誘発した側坐核のDA遊離の亢進は,同部位のGABA_B受容体の活性化によって抑制されることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の交付申請書の「研究の目的」の通り,慢性歯髄炎モデルラットの疼痛閾値の低下において三叉神経脊髄路核尾側亜核のアストログリアが果たす役割を,同部位の神経活動を指標として捉えることができた。また,神経障害処置を受けていないラットで観察されたGABA合成酵素の阻害薬のallylglycineが示す側坐核のドパミン遊離促進の発現には,GABA_AではなくGABA_B受容体の刺激の低下が関与することが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,顎顔面の神経障害を伴う個体における「痛み」に関連する神経核の活動制御の特徴を解明するため,当初計画の通りに行動学・電気生理学・組織化学に基づく手法を組合せた実験を進める。本研究で集積しつつある神経障害を伴わない個体を用いた神経化学的実験で得た知見を,顎顔面の難治性疼痛の発症機構の解明や治療薬開発のヒントにつなげていくため,参考となる学術論文等の情報の収集を促進することが次年度の課題である。
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