研究概要 |
本研究は化学感受性嘔吐誘発域である延髄最後野ニューロン活動の摂食調節における機能的役割について明らかにおするために,最後野単一ニューロン活動を解析する電気生理学的手法と,条件付け味覚嫌悪学習の獲得を指標にした行動科学的解析手法とを併用して解析を行ったものである.これまでの我々の研究から,最後野ニューロンはHチャネル(過分極作動性カチオンチャネル)発現型(60%)とHチャネル非発現型(40%)とに大別されることが分かっており,このいずれのタイプのニューロン群が嘔吐誘発や摂食調節に関わっているのかについて検討した.摂食抑制ホルモンであるアミリン(1~100nM)に対して応答を示すニューロン群は最後野のHチャネル非発現型ニューロンにのみ認められた。前年に得られたHチャネル発現型ニューロンのアミリン感受性については追加実験をおこないデータを再分析した結果,アーチファクトである可能性が高く,Hチャネル発現型ニューロンにアミリン応答性は認められないと結論づけた。一方,塩化リチウムの腹腔内投与により惹起される内臓不快感と,塩化リチウムの投与直前に与えたサッカリン(甘味)に対する連合学習である味覚嫌悪行動が,Hチャネルの阻害薬(ZD7288)を投与することにより減弱した。これらの結果を総括すると,Hチャネル発現型ニューロンは悪心・嘔吐の誘発により深く関与し,Hチャネル非発現型ニューロンは摂食調節機序により深く関わっていることが示唆された。今後,嘔吐誘発機序と摂食調節に関わるニューロン群がどのようにニューロンネットワークを形成し,それぞれの機能調節に特異的に関与することが可能になっているのかについて更に詳細を明らかにする予定である。
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