舌を器用に動かすしくみ(舌運動の巧緻的制御機構)について、その大脳皮質神経機構を解明するため、舌運動時における体性感覚野微小領域の細胞群の活動様式を調べることを目的とする。無麻酔覚醒状態のマカクザルの大脳一次体性感覚野において、以下の電気生理学的実験を行う。まず口腔粘膜、舌筋等からの体性感覚入力(触覚、筋伸展に関する感覚情報など)を受けている脳領域(口腔再現領域)に局在する複数の神経細胞から同時記録を行う(複数細胞同時記録)。そしてこれらの細胞が、様々な舌運動を組み合わせた課題をサルが自発的に遂行する際に、どのような活動パターンを示すか解析し、どのように感覚情報や運動指令の情報を統合しているのか明らかにする。本年度は、まず実験に必要な備品、消耗品を発注、購入するなど実験環境を整えた。それと並行して、すでに先行する1頭で得られているデータに関して、数値解析的な処理を試し、その妥当性に関して検討した。すなわち、一次体性感覚野の口腔再現領域から同時記録されたニューロン間で、スパイク発射のパターンを比較してその違いを定量化するものである。まず、各スパイク列をガウス関数で畳み込み、同時記録されたスパイク列間で内積を計算した。次に発火頻度による影響を極力除外するため、スパイク数を元のデータに合わせ、発火時間をランダムにした疑似スパイク列を作り、この疑似スパイク列間で同様に内積を計算した。最後に、このシミューレーションを100回繰り返して得られた平均値と標準偏差をもとに、元のスパイク列と疑似スパイク列との乖離度をz-scoreで表現した。この指標は、スパイク列間の発火パターンの異同を簡便に表現する方法として有用であると考えられた。
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