研究概要 |
原核細胞の細胞膜が主にリン脂質で構成されているのに対して、真核細胞の細胞膜にはスフィンゴ脂質とコレステロールが存在する。スフィンゴ脂質、コレステロールが膜タンパク質と相互作用することにより、膜上に機能単位が形成され、細胞内輸送、膜動態の制御、シグナル伝達に関与する。この意味でスフィンゴ脂質は膜の構成成分として重要である。一方で、スフィンゴ脂質に分類される分子、特にスフィンゴシン-1-リン酸 (S1P)は生理活性をもつシグナル分子としても機能する。細胞外S1Pは細胞表面にあるGタンパク質共役型S1P受容体を介して血管新生やリンパ球の遊走などを引き起こす。S1Pは細胞内においてもTRAF2, プロヒビチン2, HADC1/2などの標的分子に結合して細胞増殖の促進に関与する。 本研究では細胞死におけるスフィンゴ脂質代謝の役割を解明することを目的とした。S1Pは細胞増殖を促進し、セラミドは細胞死を促進するという考え方が一般的であったが、本研究の過程で、細胞内におけるS1P産生が細胞死を誘導することを見出した。S1Pはスフィンゴシンがスフィンゴシンキナーゼ(SPHK)によりリン酸化されて生成する。スフィンゴシン由来化合物 (SG-12)はSPHK2を安定発現させたA20/2J細胞においてカスパーゼ依存性細胞死を引き起こし、その現象はSPHK2の触媒活性に依存した。また[γ-32P]ATP標識実験によりSG-12はSPHK2の基質となり、そのKmは5.5 μMであった。この結果をBioorganic & Medicinal Chemistry Letters 23:2220-2224 (2013)で発表した。またSPHK1によるスフィンゴシンからのS1P産生によっても細胞死が誘導されることを明らかにし、この経路についてはオートファジーとの関連を含めて現在投稿準備中である。
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