噛み締めによって脳の情動活動が制御されるか否かを明らかにする目的で、機能的磁気共鳴断層撮影(fMRI)を用いてヒトを被験者として研究した。健常成人28名(18-37歳、男性22名、女性6名)を被験者とし、各人の歯列の印象を取り、歯型を作製した。それぞれの歯型に合わせてクリアリテーナ(厚さ0.5mm)を作製して、平板圧センサを歯科用レジンを用いて接着した。画像および音声提示ソフトウェアpresentationを用いて噛み締め圧を提示し、圧センサのモニタ画面をバックプロジェクションスクリーンで被験者にフィードバックし、一定の噛み締め圧を維持した。生理学研究所のSiemens社製Allegra(静磁気強度3テスラ)を用いて、TR2.5秒で、ブロックデザインにて頭頸部を撮像した。被験者に所定の噛み締め圧(10%、30%、60%、ランダムに6回繰り返し)をそれぞれ20秒間提示して噛み締めてもらい、20秒間の噛み締め無しを間に挟んだ。1セッションは18(3x6)ブロックで、休憩を挟んで、2セッションのMRI画像を記録した。9名の撮像が終了した時点で、MATLAB上のspm8を用いて個人およびグループ解析を行った。噛み締め時に活動を示した領域は、両側の1次運動野と1次感覚野、外側溝上弁蓋、島皮質、右下頭頂小葉、両側の後頭葉-下側頭葉(右優位)であった。これらの領域の活動は、噛み締め圧と正の相関を示した。扁桃体の活動は、弱い噛み締め(10%圧)よりも中程度並びに強い噛み締め(30%圧、60%圧)の際に抑制される傾向が見られた。その後さらに19名の被験者で撮像を行い、現在28名全員のデータを用いて解析を進めている。
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