研究概要 |
煙草主成分のニコチンは多彩な薬理作用を持ち,歯科臨床においても喫煙に係わる歯周病増悪因子として考えられているが,一方で鎮痛効果を持つことから,その鎮痛機序が新しい疼痛制御の開発に繋がるものと期待されている。しかしその機序については不明な点が多い。そこで我々は,ニコチンの鎮痛効果の機序の一つとして疼痛制御に関わるノルアドレナリン(NA)神経系への影響に着目した。本研究の目的は,この神経伝達の調節に重要な役割を担う伝達物質再取り込み機構,すなわちノルアドレナリントランスポーター(NET)に対するニコチンの発現調節の機序とその薬理学的意義を解明するものである。 このために初年度はまず,ニコチンによるNET遺伝子の転写・転写後修飾のメカニズムを明らかにするため,in vitroモデル系として既に確立した細胞系と,in vivo個体レベルでのモデル動物系において,NET発現に対するニコチンの作用を探求した。 その結果,ニコチンはNET mRNA,蛋白の発現を促進することが明らかとなったが,その効果はNETを発現する種々の組織,あるいは培養細胞系においても異なっていた。培養細胞を用いたin vitroのモデル系でのNET転写調節の解析から,ニコチンはラット由来PC12細胞においてはNET mRNA発現並びに蛋白発現を増加させるのに対し,ヒト由来SK-N-SH細胞では逆に低下させることが明らかとなった。 次年度はこうした違いをもたらすもの(機序)が何であるかに焦点を当て研究を行う予定である。
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