研究概要 |
間葉系幹細胞は、骨・軟骨・脂肪・その他の細胞に分化する能力(多分化能)を持ち、再生医療のための細胞のソースとしても有用であることが明らかになってきた。細胞の骨分化・軟骨分化・脂肪分化などの分化調節機構は、既に分子レベルで解明されている一方で、分化前の段階である間葉系幹細胞の制御機構はあまり明らかになっていない。我々は、これらの制御を行う因子の候補として、未分化な間葉系幹細胞で発現が高い9つの転写因子(SOX11,ETV1,ETV5,HMGA2,FOXP1,GATA6,KLF12,PRDM16,SIM2)を同定している。本研究では、それらの機能を調べるために、まず、Invitrogenのレンチウイルスベクターへの組み込みを行い、されにこれらをパッケージング細胞に導入して、MSCに感染させるためのウイルスを得た。これらを用いて各種転写因子を間葉系幹細胞で過剰発現させ、その影響を検討した。その結果、SIM2の過剰発現では、HMGA2とFOXP1の発現上昇とGATA6の発現低下が見られた。また、HMGA2の過剰発現では、SIM2の発現上昇とGATA6の発現低下が見られた。一方、これらの発現をsiRNAによって抑制したところ、概ね逆の影響が見られた。また、GATA6の過剰発現および発現抑制では、各種インテグリンの発現の変動が認められた。これらのことから、同定した9つの転写因子のいくつかは、互いに制御し合う転写因子ネットワークを構成していることが示唆された。また、siRNAによるGATA6の発現抑制は細胞増殖を抑制することから、GATA6はインテグリンの制御を介して細胞増殖の調節を行うことが示唆された。
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