咀嚼時に生じる顎運動と頭部運動の中枢性制御機構を解明するため、まずラットをウレタンで麻酔し、皮質顎顔面運動野の連続電気刺激によりリズミックな顎運動を誘発させた。この時、顎運動ならびに咬筋、顎二腹筋前腹、胸鎖乳突筋、板状筋から筋電図を記録した。次に顎運動中に、顎運動と頭部運動の制御に関係していると考えられる前庭神経核の電気刺激を行った。そして顎運動と各筋電図活動にどのような変調が見られるか検索し、以下のことが明らかとなった。1、板状筋は口腔顔面運動野刺激後、最初に生じる開口運動に伴って活動が上昇した。そしてリズミックな顎運動中、開口運動の開始約34ms後から、閉口運動の開始前後まで、リズミックな群発活動が見られた。一方、胸鎖乳突筋は顎運動中、群発活動は見られなかった。2、閉口相で前庭神経内側核を刺激した場合、閉口運動の振幅が増大し、前庭神経内側核刺激と同側への側方運動の振幅が増大した。また咬筋活動の持続時間が増大し、胸鎖乳突筋で群発活動が誘発した。3、開口相で前庭神経内側核を刺激した場合、小さな閉口運動が誘発し、側方運動の持続時間が増大した。また咬筋と胸鎖乳突筋で群発活動が誘発され、顎二腹筋前腹の抑制が生じた。4、閉口相で前庭神経外側核と前庭神経上核を刺激した場合、閉口運動の振幅に影響を及ぼさなかった。5、開口相で前庭神経外側核と前庭神経上核を刺激した場合、開口運動の振幅が増大した。6、閉口相で前庭神経下核を刺激した場合、閉口運動の振幅が減少した。7、開口相で前庭神経下核を刺激した場合、開口運動の振幅が減少した。これらのことから、前庭神経核は皮質誘発性顎運動、顎筋と頸筋の変調に関与していることが示唆された。
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