平成22年度においては、ラット歯髄細胞由来のRPC-C2Aと肺がん細胞H1299において、アデノウイルスE1AによるNF-kB抑制能発現に差異があることを発見した。両細胞の差はがん抑制遺伝子p53がH1299において欠損していることであり、E1AによるNF-kB抑制には内在性のp53発現が必要であることが疑われた。そこで我々はNF-kBとp53の結合を疑い、免疫共沈法によりこの反応を確認した。さらにGSTプルダウン法をあわせて行うことにより、p53のC末端領域に結合ドメインが存在することを突き止めた。しかしながらその生理活性を解析してみるとC末端領域だけでなくN末端領域にも抑制活性に必要な領域があることがわかった。次年度はこのドメインに結合するタンパク質のクローニングを行っていく予定である。 次に我々は、両転写因子が直接結合することから自然免疫刺激によって活性化される(核移行)NF-kBがp53の転写活性化能を阻害するのではないかと考え、p21のプロモーター領域を組み込んだルシフェラーゼ・プロモーターを用いて検討した。予想どおり過剰に発現させたNF-kBによりp53の転写活性化能は著しく抑制された。この事実は口腔細菌による自然免疫刺激が、がん抑制遺伝子の働きを負に制御している可能性を示すものであり、本研究の目的の一つである、口腔細菌感染による口腔発がんあるいはがんの悪性化のメカニズムの一端を示すものと考えられた。次年度においては軟寒天コロニー法などの併用により、上記メカニズムとがんの悪性化についてより詳細な検討を行なっていく。
|