これまで、in vitroの感染実験系においてアデノウイルスE1AによるNF-kB抑制には内在性のp53発現が必要であることが証明された。そこで我々はNF-kBとp53の結合を疑い、免疫共沈法によりこの反応を確認した。さらにGSTプルダウン法をあわせて行うことにより、p53のC末端領域に結合ドメインが存在することを突き止めた。しかしながらその生理活性を解析してみるとC末端領域だけでなくN末端領域にも抑制活性に必要な領域があることがわかった。またp53強発現によりNF-kBのサブユニットRelAがユビキチン化依存的に分解されることを突き止めた。 最終年度は、p53のN末端領域がユビキチンリガーゼ結合領域、C末端領域がNF-kBとの結合領域でありこれら3分子の複合体形成がNF-kBのプロテアソームを介した分解に必須であるという仮説に基づき、p53に結合することが報告されているユビキチンリガーゼがNF-kB抑制有するか否かを検討した。Mdm2、MdmX、Socs1、VHL、Pirh2などの中でMdm2はp53と協調的にNF-kB分解を促進した。さらにMdm2との結合能のみを欠失したp53はNF-kBを抑制できなかった。さらに、ヒトアデノウイルスは感染初期に宿主細胞の内因性p53を安定化させることも確認した。 以上より、我々の実験系において、アデノウイルスはTLR2により認識されNF-kBが活性化されるが、同時にp53の安定化を誘導することによりNF-kBをユビキチン化経路にて分解し、自然免疫系から逃避することが確認された。
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