研究概要 |
菌性ペプチドLL-37は免疫応答を調節する能力があり、慢性炎症に強く関与していることが報告されている。慢性炎症の機序は、核酸とLL-37との複合体がTLRを介して免疫応答を持続的に誘導している事が主たる原因であるとされるが、LL-37のFPLRやP2Xレセプターを介する免疫応答の惹起も複合的に考慮に入れるべきである。これまで、乾癬などの疾患について報告されているが、口腔内の疾患に関しては何ら考察されておらず不明な点が多い。歯周病は口腔内における代表的な慢性疾患であるが、歯周病においてもLL-37が病態形成に強くかかわっていると推測している。本年は、LL-37の調製とそれを用いてLL-37の基本性質について評価した。まず、評価に用いたLL-37はペプチド合成機により化学合成後、ODS-HPLCにて精製した。精製物の同定はMALDI-TOF-MS分析により行い、同定後すべての評価に用いた。まず、DNA,RNAとの結合能について評価した。Pg菌(W83)からDNA、RNAを常法により抽出し、それら核酸分子との結合能力、酵素耐性について評価した。LL-37は重量比4倍以上の存在下ですべての核酸と結合するが、十分な耐酵素活性を発揮するには10倍以上のLL-37の存在が必要であることが分かった。LL-37が培養細胞に与える影響としては、繊維芽細胞であるhGF並びに上皮細胞Oba-9を評価に用いた。hGFはLL-37濃度依存的に細胞増殖を促進したが、Oba-9には促進作用は認められなかった。また、OBa-9を用いたhealing assayでは、無血清培地下において濃度依存的に抑制的であり、これは細胞増殖促進効果も同様であった。OBa-9を用いたサイトカイン産生については、LL-37濃度依存的にTNF-α、IL-1βのmRNAの発現増強が認められた。これまでの報告では、上皮細胞であるOba-9では、代表的な菌体成分であるLPS等ではTNF-αなどの炎症性サイトカインを誘導しにくい、もしくはされないと報告されている。Oba-9においてもTLR-9の発現が蛍光抗体法により確認できている事をあわせて考えると、LL-37もしくは核酸複合体がより効果的に上皮細胞に炎症サイトカインの産生を引き起こし、速やかな炎症を誘導する可能性が推測される。
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