本研究はドラッグデリバリーシステム(DDS)キャリアであるリポソームを用いて原発腫瘍と転移リンパ節の腫瘍細胞の増殖を抑制し、さらに投与量の減量による副作用の減少を可能にすることを目的とし実施した。1年目は投与24時間後まで舌および舌からの転移経路である所属リンパ節にシスプラチンが残存することが可能なリポソームの粒子径を検討し、800nmが最適であることを明らかにした。2年目は1年目の検討で浮上した初期バーストを改善するための検討を主に行った。その結果、構成脂質としてリン脂質にコレステロールを55%添加することにより強固な膜を有するリポソームを調製することが可能となった。3年目である本年度はin vivoにて最適なリポソームの体内分布および原発巣に対する抗腫瘍効果を検討した。心臓および肝臓への集積量はコントロール群に比べて低く、脾臓、肺、腎臓へはコントロール群と同程度であった。抗腫瘍効果の検討では、シスプラチン量として0.06 mgとなるようにシスプラチン内封リポソームを腫瘍周囲6点に投与した。3回の繰り返し投与を行い、がん細胞移植から21日後の腫瘍重量を測定した結果、コントロール群の50%となり、微量のシスプラチン濃度においても腫瘍増殖抑制効果が得られることが明らかとなった。さらに、投与部位での毒性は認められなかった。 以上のように口腔内DDS製剤の開発として原発腫瘍の治療効果と副作用の減少効果を得ることができた。しかしながら、転移リンパ節の腫瘍増殖抑制効果については検討を終了することができず、当初の研究計画の75%程しか達成することができなかった。標的性と徐放性を有するリンパ管指向型製剤の開発を目的とする本検討は舌癌治療の向上に重要であると考え、残りの検討についても今後実施する予定である。
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