研究概要 |
高度悪性型の口腔扁平上皮癌で発現が停止するmucosa-associated lymphoid tissue 1(MALT1)の機能を知るため、野生型あるいは機能欠失型のMALT1を恒常的に発現する口腔癌細胞株(HSC2細胞)を樹立した。これらの細胞に発現するタンパク質種の相違を比較するため、全可溶画分をSDS-PAGEで展開したところ、細胞間で異なって存在する数種類のタンパク質バンドを認めた。そこで、それらのバンドをSDS-PAGEゲルから抽出後、TOF/MS/MS質量分析を行い、それらの多くが細胞分化に深く関連するタンパク質であることを明らかにした。細胞核内におけるMALT1結合タンパク質の同定は、光反応性クロスリンカーを用いる条件の設定を終了し、同様に質量分析法による解析を行っている。また、細胞表現型のin vitro解析を行うにあたり、増殖能、浸潤能および遊走能をリアルタイムに測定できるシステムを構築し、エンドポイントアッセイに比較して高感度で再現性の高い研究が行える環境を整えた。これらの結果により、MALT1は口腔重層扁平上皮細胞の分化を中心とした細胞形質の発現・維持に働くと考えられ、その発現停止によって口腔癌細胞は脱分化あるいは上皮間葉移行(epithelial-mesenchymal transition,EMT)に陥り、口腔癌の進展を促進させると予想できる。今後、その作用機転の詳細を明らかにすることで、口腔癌患者の予後の改善に資することを期待している。
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