高度悪性型の口腔癌ではmucosa-associated lymphoid tissue (MALT1)の発現が停止する。しかし、その機能は不明であり、それを解明することが口腔癌進展のメカニズムを理解するうえで重要な情報をもたらす。そこで野生型MALT1とドミナントネガティブ型MALT1を恒常的に発現する口腔癌細胞株を樹立し、その表現型に対する影響をおもに質量分析、マイクロアレイ法およびリアルタイム増殖・遊走アッセイで検討した。 その結果、MALT1はEGFとTGF-betaシグナル系に重要な遺伝子の発現を著しく低下させるとともに、癌の進展に深く関与するE-カドヘリンの発現抑制やケラチン分子種の改変に働くことが明らかになった。MALT1はNF-kappaBシグナルの活性化因子であると考えられているが、口腔癌細胞ではNF-kappaBに対する影響は認められなかった。また、癌細胞の表現型にも大きな変化をもたらした。すなわち、MALT1は癌細胞の増殖能と遊走能を著しく抑制した。癌細胞の増殖抑制はcyclin D1の発現低下とG1アレストの誘導が原因であった。 これらの結果から、MALT1はリンパ球系細胞とは異なり、癌の進展に働く多くの分子の発現を低下させ、癌細胞の高度悪性形質を抑制することが明らかになった。口腔癌においてMALT1は腫瘍抑制的に働き、その発現停止が癌の進展と密接な関連をもつと予想される。
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