光硬化型重合型コンポジットレジンの細胞内シグナル系への影響を低減することで、より生体に刺激のない修復方法を開発することを目的とした。これまでの研究で溶出するモノマーや光硬化型重合の開始剤として使用されているカンファーキノンや3級アミンが細胞の防御システムであるグルタチオンの合成を阻害していることが判明した。また、重合の際に利用されるラジカルが細胞内の代謝活性を著明に抑制していることが明らかとなった。このことから、ラジカルの補足作用があるとされる白金ナノコロイドを重合系に添加することで、ラジカルの細胞内への移行を抑制して細胞への影響を低減させることが可能かどうかについて検討をしてきた。その結果、ラジカル重合系に白金ナノコロイドを添加しても、ラジカルによる細胞の代謝活性の抑制効果に影響を及ぼすことは認められなかったことから、細胞外での白金ナノコロイドによるラジカルの補足効果は期待できないとの結論に至った。 そこで、ラジカルが細胞内の代謝系にどのように影響しているかを詳細に検討することでラジカルの影響を最小限に抑えることができないかを調べた。ラジカルに暴露されたTHP-1細胞(ヒト由来単球細胞)において、Caspase3、Caspase7を誘導したことから、ラジカルが細胞のアポトーシスを誘導していることが示唆された。しかしながら、Caspase8およびCaspase9の活性上昇が認められなかったことから、従来報告されている細胞膜上のデスリガンドレセプターを介した経路(Caspase9)や細胞内ストレスによりミトコンドリアを介して誘導される経路(Caspase8)とは異なる経路によりアポトーシスを誘導していることが示唆された。このことから小胞体ストレスによる誘導経路(Caspase12)が示唆されたが、ヒト由来細胞においては報告のない経路であることからさらに検討が必要と思われた。
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