研究概要 |
本研究は、根尖部および辺縁部歯周組織における補体調節因子の発現メカニズムを明らかにし、過剰な炎症反応を抑制し、正常な補体調節因子の発現を可能とする治療法を開発することを目的としている。本年度は、ヒト歯根膜細胞を用いて培養系における補体調節因子(CD46,CD55とCD59)の発現動態について検討した。 ■研究方法 ・矯正学的理由で抜歯した小臼歯より歯根膜を採取し、10%FBS添加D-MEMで培養し歯根膜細胞を得た。 ・ヒト歯根膜細胞における補体調節因子の発現をウエスタンブロット法により解析した。 ・ヒト歯根膜細胞を腫瘍壊死因子やE.coli由来のリポ多糖で刺激し、各補体制御因子の発現動態をウエスタンブロット法で解析した。 ■結果と考察 本年度の解析より、ヒト歯根膜細胞には補体調節因子(CD46,CD55とCD59)の発現が認め、また、ヒト歯根膜細胞において腫瘍壊死因子で前処理した後にリポ多糖で刺激すると、前処理しないものに比べてCD59の発現が抑制されることを明らかにした。現在、補体調節因子であるCD46,CD55とCD59が根尖性歯周炎や辺縁性歯周炎の発症にどのように関わっているかについての詳細な報告はほとんど見られない。本年度の研究結果から、ヒト歯根膜細胞上には補体の活性化を制御する因子が発現していることが明らかとなった。このことは、根尖部歯周組織は補体による攻撃を受ける環境にあることを示している。また炎症が存在する状態において細菌感染が加わると、補体攻撃を制御する調節因子の発現が抑制されることから、根尖部歯周組織では補体による攻撃を回避できず、過剰な組織障害を引き起こす可能性が示唆された。補体と補体調節因子とのバランスの崩壊が、根尖性歯周炎の成立に関与することが示された。
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