自由電子レーザー(FEL)は、波長可変性でフェムト秒オーダーの極短パルスを発振させることができる特徴を有している。そのために、さまざまな照射対象の存在する医療の分野において、その特徴を利用した研究ならびに臨床応用が期待されている。平成22、23年度の研究において、ウシ象牙質に照射した際の昇温を放射温度計にて調べ、エルビウムヤグレーザー(Er:YAG)では昇温が観察されたが、Er:YAGと同じ波長に調整したFELでは照射側及び反対側の象牙質表層(歯髄側と仮定)において温度上昇がほとんど認められなかった。また、高速度カメラにて観察した象牙質蒸散時の様相やSEM写真で検討した蒸散深さもEr:YAGとFELでは異なっていることが示された。特に、蒸散深さに関して、FELはEr:YAGの3倍以上の深さが得られた。これらの結果は、同じ波長のレーザーでも、パルス構造の違いによって被照射体に与える影響が異なることが判明した。しかし、波長の被照射体に与える影響に関しては、水の吸収波長のピークに一致したEr:YAG及びそれと同波長としたFELにおいても波長依存性が認められ、象牙質に含まれる水分が重要な要素と考えられた。しかし、従前の実験において、人工的に作製した脱灰象牙質と健全象牙質試料にEr:YAG照射を行い、蒸散深さを調べると健全象牙質の方が深く蒸散されていた。このことは、脱灰象牙質では蒸散時の衝撃波が吸収されて周囲歯質に及ばないために、蒸散深さが健全象牙質よりも浅くなったものと考えられた。そこで、保存修復治療においてコンポジットレジンの接着材として使用されているプライマーあるいはボンディング材(水成分を含む)に着目し、その接着材を硬化させた後にレーザー照射して、齲蝕象牙質の選択的で効率的な除去が可能かどうかについて調べ、現在も検討を続けている。
|