補綴処置ののち残存組織の健康を維持することは極めて重要である。しかし、実際の臨床では、補綴装置の支台歯が失われ、歯の欠損が拡大することも多い。では、なぜ欠損が拡大していくのか?この疑問を解決するためには、まず欠損がどういった要因で拡大していくかを実際の症例を基に調べる必要がある。そこで本研究は、一般開業医を対象に欠損補綴治療が終了した症例の残存歯の生存について臨床データを収集・蓄積し、データベースならびにインターフェイスを開発すること、また欠損拡大に関連する因子について検討することを目的とした。本年度は協力の得られた各医院に対して、追加調査を依頼し、より詳細なデータを収集し、欠損データをできるだけ含まないように再調査を行い、約1000本の義歯の支台歯についての予後について最終的な検討を行った。 その結果、カプランマイヤーの生存曲線を用いた検討により、直接支台歯は間接支台歯や非支台歯に比べ生存率が悪くなること、歯周メインテナンスに来院されている群とされていない群では生存曲線に大きな違いが生じること、歯冠歯根比が1.5以上の群は生存率が大きく低下すること、また直接支台装置の種類は支台歯の予後にさほど関連が見られないことなどが明らかになった。この結果は、歯周メインテナンスに来院しないことが、支台歯の予後に大きく関連しているといえるため,メインテナンスの重要性を示す重要な根拠を明らかにしたといえる。 また、Coxの比例ハザードモデルの構築した後、スクリプトを用いて、シュミレーションプログラムの製作を行った。同スクリプトにより、患者や支台歯の情報を入力することにより、その支台歯の任意の年数の生存率を予測できることが可能となった。この結果により、「この歯は何年もつか?」という患者の問いに一つのエビデンスを持って回答することが可能となったと考えられる。
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