研究概要 |
咀嚼による感覚刺激が認知機能に与える影響を調べるために,連続的な短期記憶課題の遂行前後で咀嚼を行った際の前頭前野活動の変化を光トポグラフィーにより計測を行った。被験者は、本学付属病院補綴科に来院し、インプラント義歯と部分床義歯を製作した患者を対象とした。実験は、義歯装着者の前頭部に光トポプローブ(日立メディコ社製ETG-7100)を装着し,30秒間のTwo-back課題(N-back課題)を200秒の間隔をあけて4回連続行わせ、脳活動量を計測した。Two-back課題3回目(Before 2nd)と4回目(After Gum)の間のカウントアップに合わせて、無味、無香料のガムベース(硬度5.6×104poise,ロッテ株式会社)のチューイングを行わせた。また、前頭前野活動の計測は、頭表上でのプローブ位置を3Dディジタイザにより計測し,NIRS-SPMとPOTATo(Platform for Optical Topography Analysis Tools)にて共通した賦活部位を特定した。NIRS-SPM解析では課題の前後にモーションアーチファクトの認められる症例は除外し、全被験者の試行ごとに,賦活部位に最も近いチャンネルの血流変化量の最大値を比較、検討を行った。その結果、インプラント義歯患者は、部分床義歯患者を比べ背外側前頭前野(DLPFC)の活動が増加傾向を示していた。このDLPFCの活動は有歯顎者の咀嚼においてもこれまで観察されており、認知課題に対する反応時間や課題成績が向上することがわかっている。今回の研究においてインプラント義歯は有歯顎に近い脳活動をしていることから、認知機能にも影響を及ぼす可能性が示唆されるものの、症例数が少ないためその証明には至らなかった。
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