近年の研究成果から、「インプラント埋入時のオッセオインテグレーションの獲得が、骨折時の創傷治癒に準ずる」ことが明らかにされている。本研究では骨折治癒過程に集積する骨芽細胞に分化が決定付けられた細胞(骨折誘導性骨芽細胞前駆細胞 FOPC)に着目し、FOPCを応用した新規骨増生法の可能性を探索した。 1.ラット骨折モデルの作成 8週齢、オス、Wistarラット大腿骨中央部に、歯科用ラウンドバーを用い、皮質骨を貫通し、骨髄のほぼ全層に渡る組織欠損を形成した。同部位を経時的に組織学的観察を行った結果、術後1日目に血腫形成、3日目に肉芽組織~線維組織形成、5~7日目にかけて新生骨の形成が認められた。本モデルは、皮質骨の連続性を失わせないため、固定等の操作なしに骨折類似の病態を再現することができ、かつ、ヒトの場合、通常1ヶ月以上要する治癒過程を1週間程度で観察できる非常に有用な動物モデルである。 2.骨折修復過程における骨原性細胞の動態 骨折修復過程における骨原性細胞の動態について、上記1で作成した動物モデルを用い、Thy-1 (CD90)をマーカーとして免疫組織化学的に検討した。その結果、術後3日目に形成される肉芽組織、および線維組織中に見られる線維芽細胞様細胞の多くがThy-1陽性であった。また、術後5~7日目にみられる新生骨形成の過程では、骨芽細胞周囲の線維芽細胞様細胞に強いThy-1陽性反応が認められた一方、骨芽細胞は弱陽性~陰性であった。また、新生骨中の骨細胞はThy-1陰性であった。以上の所見から、骨髄中に存在するThy-1陽性細胞が、骨折の刺激により同部位に集積、増殖し、骨折の修復過程に関与することが示唆された。
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