研究概要 |
現在,生体骨代替用として用いられているTi-6Al-4V合金やTi-6Al-7Nb合金などのチタン合金は,高強度を有するものの,ヤング率や剛性率などの弾性率が生体の皮質骨に比べて著しく大きく,弾性的性質の点で改良の余地がある。本研究では弾性的性質が皮質骨にできる限り近似するとともに,生体疑似環境下で優れた耐食性を示すチタン合金の開発するため,Tiに20,40,60,80 at.%濃度のHfを添加したTi-Hf系2元合金を溶製し,凝固のまま(as-cast)の状態における密度,結晶構造,弾性的性質,ビッカース硬さ,耐食性等を評価した。得られた結果を要約すると次のようになる。 1.密度は純Tiの4.463g/cm^3から純Hfの12.711g/cm^3までHf濃度の増加とともに単調に増加した。また,密度-Hf濃度曲線は,純Tiと純Hfの密度の点を結ぶ直線からわずかながら正に偏椅していた。 2.as-cast状態における結晶構造は純Tiでは低温安定相のα相単相であったが,Ti-Hf系2元合金では,α相に高温安定相のβ相が混在した(α+β)2相状態となっていた。 3.各合金のX線回折図形よりα相(HCP構造)の軸比(c/a)を求めると,Ti-40 at.% Hf組成で極小値1.576をとった。 4.Ti-Hf合金のas-cast状態のビッカース硬さは,Ti-40 at.% Hf組成において最大値320±5を示した。 5.Ti-Hf合金のas-cast状態のヤング率は,Ti-20 at.% Hf組成で極小値112.2 GPaを示した。 6.各合金の0.9% NaCl水溶液中における耐食性を動電位分極実験によって検討した結果,Hf濃度が60at.%まで増加しても高耐食性を維持し,+1.0 V(Ag/AgCl参照電極)の高電位に達しても孔食が発生しなかった。しかし,Ti-80 at.% Hf合金では0.5 V付近で孔食が発生し,耐食性の低下が認められた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から,Tiのヤング率を低下させるにはHf添加よりZr添加の方が有効であり,Ti-60 at.% Zr組成でヤング率は89.5 GPaの低い値を示すことが明らかとなった。しかし,Ti-Zr系合金はZr濃度が高くなると,孔食電位が低下して耐食性が低下する恐れがあることも分かった。そこで今後は,Ti-Zr系で最も低いヤング率を示したTi-60 at.% Zr合金を母合金とし,これに耐食性を改善することが期待できるPdやPtなどの貴金属元素を少量添加した3元合金を溶製して,これまでと同様の手法で弾性的性質やビッカース硬さなどの機械的性質などを検討したい。
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