本研究では,これまでの研究で純 Ti より低いヤング率を示すことが明らかとなったTi-60 at.% Zr合金とTi-70 at.%Zr合金に耐食性の向上を図るため,1 at.%Pdまたは1 at.%Ptを添加した4種類のチタン合金を作製し,as-cast状態の弾性的性質を評価するとともに,ビッカース硬さを求めた。さらに,X線回折による結晶構造の解析を行った。得られた主な結果は次の通りである。 1.母合金に対する1 at.%のPdまたはPt添加によってヤング率が顕著に増加した。すなわち,Ti-60Zr合金およびTi-70Zr合金のヤング率は,それぞれ 89.5 GPa,91.4 GPa であったが,(Ti-60Zr)-1Pdでは100.5 GPa,(Ti-60Zr)-1Pt合金では113.3 GPaを示した。さらに,(Ti-70Zr)-1Pdでは92.5 GPa,(Ti-70Zr)-1Pt合金では111.4 GPaであった。 2.as-cast状態における合金のビッカース硬さは,1 at.%のPdまたはPt添加によって顕著に増加した。 3.母合金のTi-60Zr合金およびTi-70Zr合金に対するPdおよびPt添加量はわずかに1 at.%であったが,X線回折実験より,as-cast状態における合金の構成相が著しく変化することが明らかとなった。すなわちこれらの貴金属元素の添加によって低温安定相のα相に加えてω相が生成し,室温で(α+ω)2相共存状態となっていた。このω相の生成が,弾性率とビッカース硬さの増加をもたらしたものと考えられる。 【まとめ】Ti-Zr合金に対する1 at.%のPdまたはPt添加は耐食性の向上の点では有利であるが,弾性率を著しく増加させるため,ヤング率の低いチタン合金の開発の目的には適っていないと結論される。
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