本年度はアパタイト合成装置を一部改良し、全体の加熱にウォーターバスを用いて均一で安定した加熱が出来るようにした。また、Ca欠損型アパタイトを初期に合成するため、合成の場となるイオン溶液としてリン酸アンモニウム溶液を加温し、28%アンモニア溶液でpHを調整して、これに炭酸カルシウムを滴下する方法にした。結晶合性中は10%炭酸アンモニウムでpHの調整を行った。合成条件は80±1℃で、pHは8.0±0.1とした。これによりpHの変動を効率よく調整することが出来る様になった。また、合成後半に結晶性を高めるため、溶液中にHFを0.1Mの割合で添加した。添加の方法は、短時間(5分間位)に多量に添加する方法と、少量を30分位かけて滴下する方法を比較したが、少量を時間をかけて添加する方がフッ素の量が少なくても比較的結晶性の良いものが得られるように見えた。合成中の結晶を経時的に透過電子顕微鏡で観察すると、初めは顆粒状の結晶が観察され、合成30分後位から棒状の結晶が見られるようになったが、120分後でも一部で顆粒状の結晶がみられた。これは酢酸カルシウムを滴下している間は初期結晶核の合成が起こっているためと思われるので、滴下終了後にpHを調整しながら結晶成熟期間を長く取ることが必要と考えられた。 合成の終了した結晶中央にナノスペースの孔を空けるため、pH4.5の0.1M乳酸を50℃に加温し3日間浸漬した。これをグリッド上に散布し透過電子顕微鏡で観察すると、中央に孔が空き、端が閉じた棒状のアパタイトが多数観察された。さらに樹脂に包埋して超薄切片を作成し、高分解能電子顕微鏡で観察すると、c軸断面が概ね正六角形の結晶が多くみられ、結晶中央には尖孔像が観察された。尖孔部の一部には格子欠損を含む結晶格子像も見られたので、結晶内部の結晶性が不均一である可能性が示唆された。今年度はこれまでより、効率よくチューブ状の単結晶アパタイトを作製することができた。
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